『SILENT HILL f』は今年のベスト級ゲームか?5時間の先行プレイで見えてきた世界観の濃度、新しさと丁寧さが両立したゲームデザイン
シナリオ以外は懐疑的だった筆者も舌を巻いた高い完成度
「これは今年のベスト級のゲームかもしれない」
どちらが先に言ったのかわからないが、同行したIGN JAPAN副編集長のクラベ・エスラと顔を見合わせ、我々はそのように意見が一致した。メディア向け試遊会にて『SILENT HILL f』を、9月25日の発売日に先駆けて約5時間ほど遊び、筆者、クラベともそれぞれプレイして感想がひとつに集約したのだ。
「サイレントヒル」シリーズの特徴といえば、舞台は霧に包まれたアメリカ郊外の街、血と錆と鉄骨がむきだしの裏世界が描かれ、不気味なクリーチャーが近づくとラジオノイズが発し、鉄パイプと銃を駆使してなんとか立ち向かう……。『SILENT HILL: The Short Message』では舞台がヨーロッパに移り、これらの特徴から一部逸脱したものの、それでも舞台は西洋だった。
しかし最新作となる『SILENT HILL f』では、異例の「日本」が舞台だ。さらにストーリー担当には外部から『ひぐらしのなく頃に』の竜騎士07が起用されている。竜騎士07の作風といえば、キャラクターの心理と社会問題に根差したトラウマ的なテーマ、ミステリーと絡めた主観的な構造、土着的な風土を活かした世界観の表現力、まさに「サイレントヒル」シリーズと完全に共鳴した素晴らしい起用だといえるだろう。
とはいえシナリオは別にして、筆者としては『SILENT HILL f』に懸念がなかったわけではない。なぜなら昨年発売したリメイク版『SILENT HILL 2』の完成度が高く、どうしても比較が避けられないと思ったからだ。『SILENT HILL 2』を開発したBloober Teamが構築したビジュアルは非常に優れており、さらに本来は不得意と思われていた戦闘システムまでもが優れていた。『SILENT HILL f』は、違う開発会社であるNeoBards Entertainmentが手がけており、Bloober Teamの品質まで至れるのかどうかは筆者としてはやや懐疑的だったのである。
だが結局のところ、こうしたことは完全に杞憂だったと言わざるを得ない。約5時間のプレイだけで判断すれば、再び「サイレントヒル」がやってのけた、という印象である。緻密なグラフィック、ユニークなバトルシステム、丁寧なレベルデザインなどはどれも高い水準で作られており、そこに竜騎士07が描くストーリーと世界観が合わさり、『SILENT HILL 2』と比較しても勝るとも劣らない、非常に高品質なゲームになっていた。筆者は今、完全に手のひらを返している。
1960年代の日本が舞台の和風ホラー。冒頭から「竜騎士07節」が炸裂
本作の舞台は、1960年代の日本にある「戎ヶ丘」(えびすがおか)だ。ここはかつてダム工事や炭鉱の労働者が集まり、「お稲荷様」への信仰が厚い寂れた田舎町である。
物語は、主人公の深水雛子とその姉との回想シーンからはじまる。どうやらこの姉は結婚をして実家を出ていくようだが、なぜかカットシーンでは姉の容姿が隠されており、物語のキーとなるキャラクターのようだ。雛子の父親は癇癪持ちであり、姉が家を出て行った際に、父親の暴力が雛子に対して、より苛烈になったようだ。まだゲームははじまったばかりだが、竜騎士07が追い求めている社会的なテーマが確かに感じられる。
さて、最初のゲームプレイは雛子が家を飛び出したところからはじまり、山を開墾してできたと思われる集落を下り、「千鶴屋」という駄菓子屋に向かっていくのが目標だ。この段階ではまだ異変は起きていないが、街に人気はなく「鈴谷」という子が行方不明であることが掲示板に告知されていたりと、すでに不穏な空気が充満している。
途中、神主の娘の「咲子」という友人と出会い、会話をするが、なぜか主人公のことを「裏切り者」と呼び、さらに主人公もそのことについて触れることはない。普通の会話のなかにノイズが混入しており、奇妙な噛み合わなさを感じるのは『SILENT HILL 2』の冒頭で出会うアンジェラを彷彿とさせるものがあった。
そして目標としていた駄菓子屋にたどり着き、ここで幼馴染の「修」を含めて何人かの友人と合流する。しかしここで異変が起きる。突如、赤い植物のようなものが地表に広がり、霧が土砂のように襲い掛かる。そして奇妙なクリーチャーが跋扈しはじめるのだ。
従来シリーズのアンチテーゼ?日本の風景を活かした空間デザイン
これまでの「サイレントヒル」シリーズといえば、第一作目からその先が見えないほどの濃い霧に包まれた広い街を移動するものだった。現代的にみればオープンワールドの先駆け的な側面があっただろう。しかし本作の序盤は狭い路地での移動を繰り返すところからはじまる。
従来のように横に回ってクリーチャーを避けるような道幅の余裕はなく、武器で立ち向かうか、回避アクションを駆使して逃げるしかない。これは従来の「サイレントヒル」シリーズのアンチテーゼに思えて、新鮮味があった。
もちろん「サイレントヒル」シリーズらしさは健在だ。「地図」を見ると、従来のように行き止まりには×、通れるところには矢印マークが表示される。マップを何度も確認しながら探索していくさまは、これぞ「サイレントヒル」という感じだった。また本作では高低差があるため、一見して通れないと思ったところが通れたりと、マップ自体が一種のパズルのように機能している。
グラフィックは、田んぼのあぜ道や、小川、家屋など、和風の幻想的な美しさに満ちており、『SILENT HILL 2』以上に見所が多いかもしれない。特に一部の家には入ることができるのだが、小道具が生活感あふれており、さらに物語的な背景と絡められており、どのような住民が住んでいたのかの想像力が刺激される。
狭い空間を通っていくと、探索の自由度が飛躍的に高まる箇所もある。こうした空間的な緩急も心地よかった。しかもそうした広い場所から離れようとすると、主人公が独白で知らせてくれる箇所があり、しっかりと探索を終えてから次の段階に進めるような丁寧な作りになっていた印象だ。
『SILENT HILL 2』と同じく、戦闘システムは今作でも驚きだった
もともと「サイレントヒル」シリーズは戦闘を重視しているゲームではない。そういう意味では、リメイク版『SILENT HILL 2』の戦闘にはそもそもそれほど期待していなかったのだが、実際には主人公・ジェイムスの感情がダイナミックなカメラワーク演出とともに過剰に表現されており、この近接戦闘はストーリー表現においても一段高めていたものとして、そのクオリティの高さは意表を突かれた。
そして『SILENT HILL f』において、戦闘システムに改めて驚かされることになる。リソース管理やパラメーターの概念などは本作のオリジナルな要素であり、なかなか独自である。少し細かい話になってくるが、この戦闘の新しさについて解説を試みたい。

まず本作は「銃」などの遠距離攻撃はなく、近接攻撃のみである。ただし『SILENT HILL 2』のように鉄パイプだけではなく、「包丁」や「薙刀」など多彩な武器が登場し、『SILENT HILL ZERO』のようにほとんどの武器には耐久力があり、壊れて使用できなくなるので、その前に修理アイテムの「工具袋」を使って耐久値を回復させる必要がある。
敵との直接的な戦闘は、ベースとしてはリメイク版『SILENT HILL 2』のような肩越し視点での戦いになるが、本作では「スタミナ(持久力)」の概念があり、ソウルライクにやや近くなっている。ただし、ソウルライクとプレイ感覚が大きく違うのが、「集中モード」というのがあることだ。これはL2を押しっぱなしにすると「精神力」ゲージを消費して使うもので、敵に対して「見切り反撃」(いわゆるパリィと反撃に相当)ができるサインの表示時間が長くなる。筆者のように敵の攻撃を見極めるのが苦手なプレイヤーでも、集中モードを適切に使うことで、難局を切り抜けることができる。
「精神力」の「上限値」が一時的に減っていくのも特徴的だ。精神力を回復する通常のアイテムを使ったとしても、上限が低いと満足に回復している状態とはいえない。それだけ危険が高まってしまう。つまり長期的にみると、上限値をすり減らすような行動は抑制しなければならない。
もちろん救済策はある。これがセーブポイントを兼ねているお稲荷様が祀られた「祠」である。ここで上限値が回復できるのだが、戦闘難易度によって二手に分かれる。「物語重視」の場合は、「祠」を調べるだけで上限のゲージが回復するが、難易度が「普通」だった場合、「功徳」を消費しないと回復ができない仕組みになっている。
「功徳」というのは本作における「お金」のようなもので、特定の強力な回復アイテムを「祠」に供えることで入手できる。「功徳」を使って精神力ゲージを回復できるだけでなく、装備可能な「お守り」や体力などの上限値をあげることができる。つまり祠は「セーブポイント」だけでなく、「商人」や「アップグレード」の役割も兼ねている。
本作のリソース管理はかなり独特だが、実際にプレイすると理解は容易い

さて、いろいろと説明したが、筆者なりに本作の特にユニークなシステムを整理してみよう。パリィを容易くできる「集中モード」、精神力パラメーターの「上限値がすり減る」こと、そして「強力な回復アイテムを保持して装備やアップグレードに変換できること」、この3つに集約できるのではないかと思う。このあたりのリソース管理は言語化すると複雑だが、実際のプレイでは理解は容易く、難しいものではない。ゲームデザインの方向性のコツをつかむのも簡単だ。
なお筆者はメディア向け試遊会で推奨されていた戦闘難易度の「物語重視」でプレイしたが、苦労するところは苦労し、何度も死んだり、回復アイテムが足りなくなった局面があった。一方で隣でプレイしていたクラベは「普通」モードでプレイしており、ボス戦ではうめき声をあげるほど苦労していた。精神力や体力の上限値が減っている状態は、横目でみていてもかなりキツそうな印象だった。「普通」モードと銘打っているが、実態としてはハードモードに近いのかもしれない。
特に「精神力ゲージ」を高く保持しているかが攻略に重要そうだ。なぜなら「集中モード」を続けると「溜め攻撃(渾身の一撃)」を使用できるからである。これはボス戦においても相手を仰け反らすほど強力なもので、これの上限値が減っている状態だと、戦いは厳しくなっていくだろう。本作における「精神力ゲージ」は、ほかのゲームでは「スタミナゲージ」に包含されているものである。しかし「スタミナ」から一部要素を「精神力」として分離したのが本作の慧眼のように思えた。
そしてこの「精神力」は、イベントとも連動しており、特定のイベントシーンでは強制的にすり減っていくなど、ストーリー描写としても機能している。このあたりはクリーチャーや謎解きが、キャラクターの心理や物語と強く結びついている「サイレントヒル」らしさに満ちている。
手帳や幻想的な演出が作り出す「信頼できない語り手」
「サイレントヒル」シリーズといえば、『SILENT HILL 2』が作り出したサイコロジカルホラーとして「信頼できない語り手」があるが、本作もそれについて随所に感じ取れた。しかしその真相がなにを意味しているのかは、現段階では想像がつかない。
この観点から効いていたのが、ゲームが進行するとともに書き加えられていく「手帳」だ。これは主人公の主観的な日記や、「謎解きのヒント」が記載されるメモ帳も兼ねているが、世界観やキャラクターを補足するTIPSとしても機能している。興味深いのが、主人公の主観的な記述を超えてテキストが更新されることが頻繁にあり、これが幻想的な雰囲気を醸し出していた。
ちなみに、すでに戦闘難易度に触れたが、シリーズ恒例である謎解きの難易度も選べるようになっており、「物語重視」と手強い謎解きの「五里霧中」というモードに加え、「普通」モードも選択可能だ。
新作ゲームに関して、あまり期待感を煽りすぎるのはよくないとは重々承知している。今回の筆者の感想は、あくまで5時間ほどプレイしたものであることは強調しておく。なお筆者と合わない部分があるとすると、先行のトレーラーから予期していた部分もあったが、集合体恐怖症の人(筆者もそうである)には、ややキツイ描写もあることである。約5時間プレイした範囲では、そうした描写はカットシーンで1分にも満たない程度で、思っていたよりは少なく、多少胸をなでおろした。
なお筆者と同行し、プレイしたクラベは今回はIGN JAPANの担当ではなく、IGN本家の記事を担当している。英語にはなるが、クラベの感想が気になる人はそちらを読んでほしい。なお、筆者は別途インタビュー記事も担当している。このプレイレポート記事にはない本作の情報が含まれているので、そちらもぜひ確認してみてほしい。
『SILENT HILL f』は9月25日、PS5/Xbox Series X|S/PC向けに発売予定だ。
©Konami Digital Entertainment
※画面は開発中のものです。