リアル脱出ゲームのエッセンスが詰まった、硬派なのに遊びやすい本格謎解きゲーム 『UNLOCKERS』インタビュー【PR】
すべては謎解き愛がゆえ
Steamで配信が始まった脱出ゲーム『UNLOCKERS』。プレイヤーは謎の部屋に閉じ込められた少年・ノアとなって、「他人に乗り移る」能力をもつという不思議な少女・サリーと協力して、脱出する方法を探していく。
鍵のかかった密室で脱出のための手がかりを探していく、という点はスタンダードでなじみやすいポイント&クリックの脱出ゲームの形式だが、『UNLOCKERS』の謎解きはそのどれもが、現実の脱出ゲーム、いわゆるリアル脱出(謎解き)ゲームでも通用するようなソリッドな仕掛けに満ちている。
本作の開発を手がけるのは、2024年に発足した「ヴェルクス・スタジオ」。フロム・ソフトウェアやスクウェア・エニックスなどで多数の有名作品の開発を手がけてきた五十嵐翔氏が設立したヴェルクス・スタジオは、「ゲーム好きのためのゲーム」を制作するというビジョンに共感したスタッフが集っている。
ヴェルクス・スタジオにはさまざまな開発会社で経験を積んだ11人のスタッフが在籍し、主にUE5でのゲーム開発を得意としている。『UNLOCKERS』の開発は実質3カ月でおこなわれたというから、同スタジオの技術力とモチベーションの大きさが理解できる。
代表の五十嵐氏は、クリエイターひとりひとりが作りたいものを作れるスタジオになってほしい、という理念を持ってヴェルクス・スタジオを創設したという。そのため、スタッフの得意なもの、好きなものをゲームにしていく姿勢が同スタジオでは強い。『UNLOCKERS』の開発が始まったのも、メインでディレクションを務めるスタッフの「謎解き愛」がきっかけだった。
今回は、『UNLOCKERS』のメインディレクションを担当した香月氏と、プロデューサーの千氏(PN「Isabell」)にインタビューを行い、本格的な謎解き脱出ゲームが作られるまでの経緯、そしてヴェルクス・スタジオが目指すビジョンをうかがった。

開発のきっかけは、リアル脱出ゲームへの愛
――『UNLOCKERS』の開発スタッフについて教えてください。3カ月で完成させたということですが、何人のスタッフで開発していたのでしょうか?
香月:中心となるスタッフは4人で、ディレクター兼エンジニアの僕と、プロデューサー兼翻訳の千さん、演出やUI全般を担当してくれたサブディレクター、3Dアセットのほぼすべてを作ったアートディレクター、というようなメンバーになります。
千:Steamでの販売はグローバルが前提となりますから、英訳に関しては自分から手を挙げて担当させていただきました。
――この作品はもともと、香月さんの「リアル謎解きゲームへの愛」がきっかけで生まれたとうかがいました。
香月:リアル脱出ゲームの中でも、僕はホテルの一室を使うタイプのものが好きなんです。部屋に8人くらいの参加者が集められて、棚を開けて中を調べたり電気を消してみたりして脱出の方法を試行錯誤するタイプの脱出ゲームですね。『UNLOCKERS』ではそういった感覚をネイティブのゲームに落とし込む狙いがありました。ですから「実際のリアル脱出ゲームでありそう」という部分は非常にこだわりましたし、ゲームを作っているあいだは寝ても覚めても「あそこにはもうちょっと謎を入れられたのでは」とか、「あの謎にはもしかして別解があるのでは」と、ずっと悩み続けていました。

香月:謎解きゲームはその性質上、答えを一度知ってしまうと、もう二度と同じ気持ちで解くことはできません。謎のロジックを理解しないまま、うっかり答えにたどり着いてしまったりすると、プレイヤーとして非常にもったいない気持ちになります。そういったことが起こらないように、ちゃんと理解して謎を解かなければ答えにたどり着けないようにしたり、矛盾が起こらないように物語として筋が通っているかを確認したり、プレイヤーに謎解きの楽しみを体験してもらうためにひとつひとつの謎について考え抜きました。
限られた空間で多彩な謎を生み出す、レベルデザインの妙
――ひとつの部屋で起こる変化によって、謎にもバリエーションが生まれているのが印象的ですが、こうした工夫はどのようにして生まれたのでしょうか。
香月:サブディレクターを担当してくれているスタッフはレベルデザインが非常に得意で、プレイヤーの導線を作るような部分は彼に一任していました。謎の内容は僕が考えたものですが、実際の部屋の配置や演出は彼のセンスによるところが大きいですね。ピッキングゲームの内容も彼が担当しています。

香月:今回は期間も短かったため、ひとつの部屋をなるべくいろいろな使い方をしたいという考えから、このようなシステムになったのですが、小さい空間をさまざまな状況でやりくりするという点も、リアル脱出ゲームを強く参考にしています。

――『UNLOCKERS』にはトゥルーエンドへの分岐のための最後の謎解きが存在しますね。この作りも、実際のリアル脱出ゲームからインスピレーションを受けたのでしょうか?
香月:謎解きが好きな人にはよく知られている言葉で「大謎」というものがあります。それまでの細かい謎や、それまでの謎解きで覚えた知識をすべて使って、最後の最後に大きな謎に挑む、という仕掛けです。『UNLOCKERS』の最後の謎も、それまでの謎解きが最後の瞬間のために用意されています。難易度的にもかなり難しいものになっていますので、謎解きが好きな方にぜひチャレンジしてほしいなと思っています。
――個人的にいちばんありがたかったのは、「ヒント機能」の存在です。謎ごとに細かくヒントが用意されているうえ、ヒントの内容も的確で、私でもトゥルーエンドにたどり着くことができました。
香月:実をいうと、当初はヒント機能は実装していなかったんです。ですが、社内でテストプレイをした結果、クリアできない人が数名出まして……。
千:私はそんなに謎解きの経験がなかったので、テストプレイしてみたら「いや、これ全然解けないですよ」という風に何回かなってしまったんですよね。そこからヒント機能が必要なのではと話が進みました。自力で謎を解きたいプレイヤーはヒントを見ずに楽しめますし、そうでないプレイヤーは迷ったときにヒントに頼って先に進めることも可能なので、プレイスタイルにあわせて選択していただければと思います。
香月:開発側はすでに答えを知ってしまっているので、どこがわからないのか想定するのが難しく、同様にヒントを考えるのも困難でした。そこでクリアできなかった社員に張りついて、クリアできるようになるまでヒントを追加し続けました。結果、全社員がクリアし、同時にこのヒント機能が出来上がったというわけです。
千:謎解きゲームをあまりしてこなかったプレイヤーにもぜひ楽しんでいただきたいという思いで、ユーザー目線をつねに意識しながら開発を行ってきました。ヒント機能はそのためにもすごく重要なものだと考えていましたし、ヒントによって先の展開がわかってしまうことにならないようにも気をつけましたね。

クリエイターが作りたいものを作る、少数精鋭のチーム運営
――お話を聞いていると、スタジオ内でのコミュニケーションが非常に活発で、チーム以外のスタッフも気軽に作品についてお話できるような環境になっているのではと感じます。
千:そうですね。自分の職種以外でも、やりたいことがあるならある程度まで垣根を越えてやっていいという雰囲気がありますね。私自身、そんな気風に惹かれてこのスタジオに参加した部分もあるんです。『UNLOCKERS』に関しても、チームのメンバー以外でも何か意見があれば自由に言ってほしいということで、活発に意見や議論が飛び交っていました。
――千さんはプロデューサーと翻訳、デバッグと、1人3役を務められていますね。開発は非常に大変だったのではないでしょうか。
千:Steamでの発売となると日英の両方が必要だろうという話になった際に、それならば私が翻訳をやります、と自分から手を挙げました。子ども達らしい口調と、研究施設の資料などの硬めの文体との違いに気をつけて訳し分けているので、その点は注目してほしいですね。英語がわかるプレイヤーだったら、ぜひ両方の言語で2回遊んでほしいなと思っています。自分の翻訳をチェックするためにもかなりデバッグをしました。前職ではアシスタントプロデューサーとしてデバッグからシナリオ企画まで、幅広くゲーム開発の工程に関わっていましたので、その経験が生かせた気もします。
香月:謎解きは言葉の細かいニュアンスが解き筋になっていたりするので、言い回しを変えると謎が機能しなくなる可能性があるんです。その点で千さんは謎解きの仕組みや内容を理解してもらったうえで翻訳をお願いでき、さらに漫画やアニメの表現にも精通していたので、安心して任せることができました。
――かわいらしくも緊張感のあるメインビジュアルも非常に印象的ですね、『UNLOCKERS』のイラストはどなたかが担当されたのでしょうか?

香月:イラストはブラウニーズ(「EGGLIA」シリーズや『ドラえもん のび太の牧場物語』などで知られるゲーム開発会社)さんにお願いしました。このイラストはチーム内でも皆に大好評でして、このイラストがなければリリースまでたどり着けなかったのではないかと思うほどです。ブラウニーズさんのイラストが開発のモチベーションになっていたのは間違いありません。
千:『UNLOCKERS』は子ども達の友情によって成り立つ物語ですよね。二人の純真な絆と、ストーリーの舞台となる施設の不気味さのコントラストにも注目してほしいです。コンパクトなゲームではありますが、物語についてもいろいろとイマジネーションを膨らませていただけるとうれしいですね。
――舞台の不気味さの話が出たので、そのこだわりについても教えていただけますか。
香月:部屋の3Dモデルについては当初購入アセットの使用を検討していたのですが、最終的にはアートディレクターがすべてひとりで作ってしまいました。そのおかげもあり、一見ホテルの一室のようですが、ところどころに違和感や不気味さのある、理想の部屋に仕上がったと思っています。アートディレクターは3Dのモデリングだけでなく、ライティングやポストプロセスなども担当していまして、ゲーム全体の雰囲気作りは彼のスキルによるものが大きいです。

個人でのインディーゲーム制作も奨励する、自由でクリエイティビティに満ちたヴェルクス・スタジオのこれから
――ゲーム開発が大型化していき、開発中止となってしまうプロジェクトもある現状を考えると、クリエイターが作りたいものを世に送り出すことは大きなチャレンジですね。
香月:ヴェルクス・スタジオには大手のデベロッパーから来ているスタッフも多いのですが、多かれ少なかれ皆、プロジェクトの凍結を経験しています。経営的な判断で言えば仕方のないことでもあるのですが、作りたいゲームを作るというのは、今の時代、とても難しいことになってしまったように感じています。一方で、弊社代表の五十嵐は開発出身なので、採算よりも「作りたいものを作って世に出したい」と思ってるタイプなんですよね。ヴェルクス・スタジオは、そのための会社というわけです。
千:プロデューサーとしての立場から話をすると、収支の管理や利益を第一に考えなければいけないかもしれません。ただ、それでもやはり作りたいものを作るのがいちばん大事だと思っているんです。大手の場合は世の中の流行に合わせて作品を作っていくべきなのかなと考えてしまうのも無理はありません。ですが、近年のビデオゲームは制作に何年も要するため、流行もその間に変わっていきます。なので個人的な願いとしては、クリエイターたちが作りたいと思っているもの、おもしろいと信じられるものを作ってほしいし、それこそが印象的な作品を生み出し、ヒットにつながるものだと考えています。
――現在のゲーム開発の環境や市場の状況を考えると、ヴェルクス・スタジオの理念は非常に魅力的です。
千:弊社の理念に基づいた施策で、「VELUX FRIDAY」というのがあります。金曜日の1時間、本業とは別のことをする時間です。たとえば英語の��強をしたり、Photoshopの勉強をしたり、個人でゲームを制作したり……組織の役に立つ革新を促す時間になっています。私個人としても遅いペースではありますが、個人的にゲーム作りをしています。
――最後に、『UNLOCKERS』をこれから遊ぼうと思っているプレイヤーにメッセージをお願いします。
香月:僕自身、脱出ゲームが大好きで作ったゲームとなりますので、謎解きが得意な方に届いたらすごくうれしいなと思っています。謎解きはすごくおもしろいのですが、一度遊んだらもう永遠にできなくなってしまう儚さもあり、魅力を人に紹介するのも非常に難しいジャンルです。自分が本当に求める謎解きを探すのもものすごく難しいジャンルではあるのですが、それでもやはりその楽しさは広まってほしい、たくさんの人に謎解きの魅力に触れてほしいとも思っているんです。ですから『UNLOCKERS』は、代表の五十嵐に頼んで最初から最後まで動画配信がオーケーになっています。ゲームをきっかけに謎解きクラスタが増えれば謎解きの需要が増えますし、そうすれば僕もまた新たな謎解きゲームを作れます。ぜひいろんな人に謎解きや閃きのおもしろさが伝わるとうれしいなと、強く思っています。
たった数名のクリエイターの「好き」に突き動かされて、驚くほどのスピード感で完成した『UNLOCKERS』。リアル脱出ゲームのエッセンスが詰まった本格的な謎解きは、謎解き初心者も謎解き上級者も楽しめるものとなっている。
『UNLOCKERS』を皮切りに、ヴェルクス・スタジオは今後もオリジナルの作品を開発していくとのこと。クリエイターの「好き」「作りたい」から始まる作品作りを続けていくヴェルクス・スタジオの今後にも注目したい。
『UNLOCKERS』の関連リンクは以下のとおり。